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2004年12月18日

●ナイン・ストーリーズ

nine.jpgナイン・ストーリーズ 改版(新潮文庫)
 スポーツするために向かう車内で語られる「笑い男」、子供の傷ついた心を描く「小舟のほとりで」、論理の脱却をはかる「テディ」など、短編を9つ収録。
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 この本の巻頭には「隻手の音声」の公案がのせられている。
 最初、なぜこの公案がのせられているのかわからなかったし、それぞれの短編を読んでみてもさっぱり意味のわからないものが多かった。自分には読解力が全然ないのではないかと思ったくらいである。
 だが、最後に収録されている「テディ」を読むと、それぞれの短編の楽しみ方が何となくわかってくるような気がするし、巻頭になぜ禅の公案がのせられているのかが、なるほど、と思うようになってくる。
 先入観とか、こだわりとか、そういったものを捨てて、そのままの作品を自分が思うままに楽しめばいいのかな、と思う。
 そうやって考えると、一番好きな短編は「小舟のほとりで」である。海軍の提督の真似をする母親と、その息子との会話が読んでいて微笑ましい。作者もユダヤ人ということで、似たような経験をしたかもしれないな、と思った。
 サリンジャーといえば「ライ麦畑でつかまえて」だが、こちらは全く読んだことがない。当時話題作だったということだが、そのうち読んでみるかもしれない。

2004年12月14日

●ステップファザー・ステップ

step.jpgステップファザー・ステップ(講談社文庫)
 とある家に泥棒にはいった「俺」。だがへまをしてしまう。家の住人に通報されるかと思いきや、住人の双子は「俺」を父親がわりに利用しようと交渉をもちかけてきた。
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 このお話は軽いお話である。現実はこんなものではないと思うけれども、素晴らしくいいこな双子(両親に駆け落ちされた遺棄児童であるにも関わらず現状のままを望んでいる)と泥棒である「俺」との会話、根底に流れる暖かなものが、この作品にはある。
 だが、軽くて楽しいお話になっているぶん、深みにはどうしても欠けるので、そういったものが読みたいと思っている人には向いていないと思う(表紙で軽いお話だとわかるとは思うが)。
 クライム・コメディを書きたかったと巻末の「メイキングオブ宮部みゆき」では書いてあるが、確かにこれを読んでいる時点では、そういうもののほうが向いているのかも、とも思う(最も宮部みゆきの最新作は読んでいないのだが)。
 「火車」「理由」などのシリアスな推理ものも読んだし、それも面白いと思った。だが、どこがどうと指摘できないけれども「筆のうまさだけで書けている」部分があるような気がして、そこが気になるのである。
 しかし宮部みゆきのそういう点を指摘しているようなサイトや人はないに等しく、もしかして自分は間違っているのではないだろうか?と思いながら書いてみた。もちろん上手だし面白いのだが、ここまで上手であれば、ただ「面白い」以上のものが欲しいのである。

2004年11月21日

●パリ左岸のピアノ工房

piano.jpgパリ左岸のピアノ工房(Crest books)
 子供の送り迎えの途中にある「デフォルジュ・ピアノ店」。中古のピアノを欲しがっている「わたし」は興味本位からそのピアノ店を覗いてみた。そこには、パリの職人の世界と、美しいピアノの世界があった。
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 楽器というものは、おしなべて私から最も遠いものである。
 私が習ったものといえば、リコーダーとピアニカぐらいなもので、覚えているものといえば音色というより、ピアニカはきちんと洗っていないと唾液のせいでひどく臭かったなあとかそういったことである。
 この本は、ピアノを通した人情味あふれる世界のことを書いているのではないか、と勝手に想像したから読んでみたかったのである。
 そして読んでみて思ったことは、やはりただの人情の世界ではなくてピアノが中心なのだが、ピアノが好きな人にとってはたまらない本なのではないかと思う。何しろ、ピアノをよく知らない私でさえ、読んでいる間は機会さえあればピアノを習ってもいいかもしれない、と思っていたぐらいなのである。
 ピアノといえばヤマハぐらいしか知らなかったのだが、実に様々なピアノがあって、それぞれ音色が違い、非常に長持ちする楽器なので、昔のピアノも残っているし、それは現代のものよりも珍重されることがある、などなど、色々なことを知った。
 著者が「最も高価な、現代の最高の楽器」であるファツィオーリのピアノ工場を見学に行くエピソードや、パリで開かれるピアノのマスタークラスでの模様など、面白いエピソードも沢山のっている。
 だが、何より著者のピアノに対する敬意と愛情が、読んでいてこちらにも伝わってくるのである。

2004年11月14日

●It

it01.jpgit02.jpgit03.jpgit04.jpg
It 1(文春文庫)
It 2(文春文庫)
It 3(文春文庫)
It 4(文春文庫)
 「あれが戻ってきたよ・・・君は約束したね・・・」
 この1本の電話で、6人の男女がデリーに戻ってくることになった。27年前に起こったあること、そこでなされたある約束を果たすために。
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 この本は再読である。かつて読んだときはハードカバーだったのだが、いずれ買わねば、と思っていたのを、ちょうど本屋でみかけたので購入した。
 細かい部分を忘れていたのだが、読んでみてああそうそう、こういう話だったなあ、と懐かしさを覚えた。同時に、少年時代のパートに感じる郷愁(私の少女時代はこういったものではなかったにも関わらず感じる)、章の合間に語られるデリーで起こったItに関する事件、少年時代と大人時代とがめまぐるしく変わっていくスピード感など、キングの代表作といえばやはり私はこれをあげるかな、と思った。

2004年10月17日

●その名にちなんで

sononani.jpgその名にちなんで(クレスト・ブックス)
 ある理由からゴーゴリと名づけられた青年は、自分の名を恥じるようになり、大学生のころについに改名する。居場所を得たような気持ちになりながら、しかし・・・。
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 周囲の評判がよかったので読んでみた。『停電の夜に』の後にすぐに購入したので、お財布はかなり悲鳴を上げたが、それはそれでよかったと思う。
 全体的に静かな小説であると思った。心に沁みる小説、と帯にあった気がするが、まさにそうで、読み終わってからしんみりした。
 インドとアメリカの間を揺れ動いたけれど、どちらでもなく、自分なりにインドもアメリカも受け入れて生きるゴーゴリ、そんなゴーゴリを全て理解できたわけでもないけど、だんだん分かってくる母親のアシマ。
 最後のくだりでは最もしんみりした。父親がはじめてくれたものに思いを馳せるゴーゴリが、特にしんみりして、余韻が残った。

2004年10月02日

●停電の夜に

teiden.jpg停電の夜に(Crest books)
 停電の夜毎にちょっとした秘密を話し合う夫婦の機微、遠くにいる家族を想う男を見る少女・・・人の心のちょっとした隙間を描く短編集。
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 周囲で面白いと評判であるので、お値段を我慢して購入してみた(その際、クレストブックが文庫でないと知らなくて文庫本コーナーの辺りをずっとうろついてしまった)。
 表題作「停電の夜に」は非常によかった。読んでいていい意味で裏切られ、しかもお互いに最後に話すとっておきの秘密が、ああ、話してしまうんだ、それを・・・と思い、その気持ちに共感できたので、非常に余韻が残った。
 「ピルザダさんが食事に来たころ」も余韻があって、よかった。その他の作品も、男女の機微や、アメリカに住んでいるインドの人たちの気持ちなど、あっという間に読んでしまった。
 本にある批評などにあるとおり、文章も静かだし、大きなドラマにあるわけではないが、ちょっとした出来事のはっとした気持ちとか、インドとアメリカで揺れ動く気持ちとか、よく書かれていると思う。
 まだこれからの作家さんのようなので、とても期待をしている。
<関連記事>
moji茶図書館さん 「停電の夜に」

2004年09月23日

●暗黒童話

ankokudouwa.jpg暗黒童話(集英社文庫)
 主人公の菜深は、とある事故で左目と記憶を失ってしまう。臓器移植手術で左目を移植したが、その左目は様々な光景を見せる不思議な目だった。ある日、その左目が行方不明になっている女子中学生が監禁されているところを見せた・・・。
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 現代ものを読んでみようと思い、乙一を選んでみた。
 読んでみて、これは完全な現代ものというよりファンタジーな要素がかなり濃いのではないかと思った(タイトルに「暗黒」とある時点でそうであるとわかりそうなものだが)。
 お話自体は、残酷な描写があるし、そのあたりがだめな人はだめだろうが、ミステリーとして読ませるし、それなりに楽しめるお話である。死んだ人に思いを馳せる登場人物たちなど、本編以外のところで余韻を感じた。
 ただ、個人的には、記憶をなくした主人公に対する周囲の対応がなぜこうなのか?ということが疑問であった。つまり思いやりがないわけであるが、普通はもっと違うのではないか?それともこういうこともありなのだろうか?と思ってしまい、お話にのめりこめなかった。

2004年09月20日

●さむらい劇場

samurai.jpgさむらい劇場 改版(新潮文庫)
 榎平八郎は家中の鼻つまみものであった。妾腹の子ゆえの放蕩無頼の日々だったが、父親に疎まれて暗殺されかかってしまう。そこを助けられたのがきっかけとなって、榎平八郎の波瀾に富んだ人生が始まる。
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 鬼平犯科帳の主人公・平蔵を彷彿とさせる主人公である。どちらが後か先かはわからないが、よく似ているなあ、と思いながら読んだ。
 登場人物は皆一様に「ただものでないやつ」ばかりで、恋あり、闘いありで楽しめる小説である。
 個人的には、平八郎は少しふらふらしすぎ(約束を反故にすることがある)な気がするが、そこを作中の登場人物につつかれても全く動揺せずに泰然自若としているし、「ただものでないやつ」とはこういうことかなあ、と思う。

2004年09月19日

●オペラ座の怪人

opera.jpgオペラ座の怪人(創元推理文庫 530‐2)
 オペラ座には、幽霊がいる。そして、オペラ座の幽霊に不利なことがあると、不思議なおぞましい出来事がおこるのだった。そんな中、オペラ座の新しい歌姫、クリスチーヌ・ダーエが上演中に謎の失踪をとげた。
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 読んでいて、古典的だなあと思っていたが、発行年から考えるに、これは古典なのだと思う。私が中学生の時分には友人が読んでいたし、そのときには「よくわからない」と言っていたような気がする。
 オペラ座の幽霊とペルシャ人の過去を思わせるやりとりとか、拷問部屋の様子とか、興味深いと思った。クリスチーヌ・ダーエとシャニィ子爵との純粋な恋愛が読んでいてほっとした(しかしクリスチーヌ・ダーエはよく泣くと思う)。
 一番よかったのはラストで、ここを書いてしまうとネタばれになってしまうが、ラストのセリフがよかった。オペラ座の幽霊はただおぞましいだけではなくて、哀れなのである。

2004年09月11日

●シャイニング(上・下)

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シャイニング 上(文春文庫 275‐58)
シャイニング 下(文春文庫 275‐59)
 ジャックは教え子を殴った責任をとらされて、教職を辞し、仕事を探していた。見つけたホテルの管理人は、願ってもない仕事だったが、そのホテルには悪意ある何かがとりついていた・・・。
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 今更ながら読了である。オリジナルの発行年は1977年で、私がまだバブバブいっていたころで、日本での発行年はまだ小学生だったことを考えると、少し不思議な気がする。
 ぐいぐい読み進められるので、やっぱりキングのお話だなあと思いながらページをめくっていた。ホテルにとりつく悪霊たちも怖いけれども、一番怖いのは登場人物たちの心理描写であると思う。
 「ペットセマタリー」もそうだが、この作品も、「心の奥底にしまっている良いとは言えない事実」を(例えば、「シャイニング」では息子ダニーと父親ジャックの仲の良さを母親ウェンディが実は嫉妬していて、自分でもわかっているのだが何とか心の奥底にしまっている)、まるで生皮でも剥ぐように剥き出しにしてしまって、破滅へと向かわせてしまうようなところがあって、読んでいて自分もはらはらした。
 映画のほうも見ていないが、「ジャック・ニコルソンの怪演ぶりがすごい」とか、「奥さんの顔のほうが怖い」とか批評サイトでは言われていて、少し見てみたくなった。

2004年08月21日

●どぶどろ

dobudoro.jpgどぶどろ(扶桑社文庫)
本所で発生した夜鷹蕎麦殺し。山東京伝の従者、平吉はその謎を追ううち、山東京伝や銀座衆の謎が見えはじめていった。
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 宮部みゆき「ぼんくら」がこの作品のスタイル(はじめに何人かの庶民の生活を短編で写していき、その人物たちが関わりあった長編が最後にある)を踏襲したことで最近注目されているそうだが、そうとは知らずに読んだ。
 私は、読書中にその本の先のストーリーを追ってページをめくってしまうという読書人にあるまじき癖を持っているが、最後を読んでしまって、「救いのない話かもしれない」と思った。だが最後まできちんと読んでみると、少なくとも主人公にとっては多少は幸せといえるのかもしれない、と思うようになった。
 この作品はお大名や知識人の、庶民よりも上のレベルの人たちの欲望や汚濁について(それに巻きこまれてしまったのが庶民)書かれている。だが主人公が何よりも目をそむけたかったのは、汚濁そのものよりも、偽善なのではないかと思う。それが何としても嫌なら、ああいう最後もありなのかもしれないと思った。
 宮部みゆきの「ぼんくら」は、そう考えると、いい言い方をすればほっとする、悪い言い方をすれば上品すぎてパンチがない終わり方だろうと思う。

2004年08月15日

●男振

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男振 改版(新潮文庫)
 若くして髪の毛が抜ける奇病になってしまった源太郎は、藩主の嗣子に侮蔑され、乱暴を働いてしまう。それがなぜか別人となって生きることを許されるが、実は藩主の血を引いていたことがわかり、お家騒動に巻き込まれる。
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 ああ池波正太郎の小説だなあ、と思う。主人公が若禿というコンプレックスをエネルギーに変えて、自分の思った道を生きて行くさまや、登場人物たちが織り成す粋な世界、など池波正太郎の世界が頭に広がってゆくようである。
 最終章は「薫風」というのだが、その名の通りの、爽やかな結末であり、読後感も未来や希望を感じさせて、佳品だと思う。

●ジェニィ

jenie.jpgジェニィ 改版(新潮文庫)
 猫大好きな少年、ピーターは、猫が飼いたくて仕方がない。ある日、交通事故にあってから、ピーターは猫となってしまう。とまどいながらも、優しい猫ジェニィに出会い、二匹は冒険の旅に出発した。
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 「トマシーナ」の前作にあたる作品がこの「ジェニィ」である。
 少年の成長物語なのだが、私には少し訳文が読みづらく感じた。それが気にならない人なら、猫がどうやってねずみをつかまえるかとか、猫の身づくろいの理由とか、本当かどうかは別としても、大変楽しい物語である。

2004年08月14日

●トマシーナ

thomasina.jpgトマシーナ(創元推理文庫)
 動物に愛情のない片田舎の獣医マクデューイ氏は、娘メアリ・ルーの可愛がっていた猫トマシーナが病気になったとき、安楽死を選んでしまう。そのときから心を閉ざすようになってしまったメアリ・ルー。途方に暮れるマクデューイ氏の前に、変わり者といわれるローリがあらわれた。
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 かなり久々の書評である(それだけあまり読書数が多くないということになる)。
 表紙の猫の絵に惹かれて購入した。前作にあたる物語「ジェニィ」があるとのことだが、先にこちらを読んでしまった。
 猫の不思議な冒険というわけでもなく、猫を通した家族愛というのがテーマだと思う。望まずして獣医になったマクデューイと、その娘メアリ・ルー、魔女と評判だが心の純粋なローリとが軸になって話が進む。全編にわたって暖かさがあり、安心して読める話になっている。また、猫の可愛らしさや、作者の猫への愛がよく伝わってきた。